薄毛・脱毛の病気

抜毛症「トリコチロマニア」とは?

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「髪を抜くのがやめられない」「やめたいのにやめられない」そんな衝動に苦しんでいる方はいませんか? 実は、こうした悩みを抱える人は決して少なくなく、一人で抱え込み、苦しんでいるケースが多いのです。

この「髪を抜く」という行為は、トリコチロマニアと呼ばれる精神疾患である可能性があります。 精神疾患と聞くと、少し抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、トリコチロマニアは適切な治療によって改善できる可能性が十分にあるのです。

この記事では、トリコチロマニアの症状や原因、そして具体的な治療法まで、医療現場での経験を踏まえながら分かりやすく解説していきます。

目次

    トリコチロマニア(抜毛症)を理解する3つのポイント

    トリコチロマニアは、自分の意思ではコントロールしにくい衝動に突き動かされる精神疾患の一つです。恥ずかしいことではなく、適切な治療によって改善する可能性が十分にあります。この記事では、トリコチロマニアの基礎知識、他の病気との違い、そしてお子さんの場合の特性について、医療現場での経験も踏まえながらわかりやすく解説します。

    トリコチロマニアとは?

    トリコチロマニアは、繰り返し自分の体毛を抜いてしまう精神疾患です。毛を抜くという行為自体に満足感や快感を感じたり、あるいは無意識のうちに抜いてしまったりすることが特徴です。

    「やめたいのにやめられない」という葛藤を抱え、抜毛後には後悔や罪悪感を抱く場合も少なくありません。この疾患は、精神医学の診断マニュアルDSM-5では、「強迫症および関連症群」に分類されています。

    毛包は、成長期→退行期→休止期という周期的な再生を繰り返す、いわば髪の毛の製造工場です。しかし、この再生システムが正常に機能しなくなると脱毛につながることがあります。免疫システムのバランスが崩れ、免疫細胞が誤って自分の毛包を攻撃してしまう自己免疫疾患がその一例です。

    トリコチロマニアの場合は、抜毛行為を続けることで毛包が物理的に損傷し、毛が生えにくくなることもあります。さらに、抜毛によって頭皮が炎症を起こす場合もあり、これも発毛を阻害する要因となります。

    他の精神疾患との違い

    トリコチロマニアは、円形脱毛症と混同されることがあります。どちらも脱毛という共通の症状がありますが、原因は大きく異なります。円形脱毛症は、先述のように免疫システムが自分の毛包を攻撃してしまう自己免疫疾患です。

    一方、トリコチロマニアは、精神的な要因から自分で毛を抜いてしまう行動上の問題です。円形脱毛症では頭皮に炎症が起きることがありますが、トリコチロマニアでは炎症は通常起きません。

    また、抜毛という症状は共通していますが、その背景にあるメカニズムは全く異なるため、治療法も異なります。自己免疫疾患である円形脱毛症には、免疫抑制剤などの薬物療法が用いられます。一方、トリコチロマニアは、精神療法や行動療法が中心となります。

    その他にも、トリコチロマニアは強迫性障害や不安神経症といった他の精神疾患との関連性も指摘されています。これらの疾患は併発することもあり、複雑な症状を呈する場合もあります。

    子供のトリコチロマニア

    トリコチロマニアは、子供や思春期の時期にも発症することがあります。子供の場合は、学校での人間関係や家庭環境など、周囲の環境に対するストレスが引き金となるケースが多いです。

    例えば、親の期待に応えたいというプレッシャーや、家庭内のトラブル、友達との喧嘩などが原因として考えられます。思春期特有の悩みや、性同一性障害といった問題を抱えている場合にも、抜毛行動が見られることがあります。

    子供の場合、自分の気持ちをうまく言葉で表現できないことが多く、抜毛という行動でストレスを発散している可能性があります。また、発達障害のある子供は、感覚過敏や衝動性のコントロールが難しいため、トリコチロマニアを発症しやすい傾向があるという報告もあります。

    トリコチロマニアの症状と原因

    「髪を抜くのをやめられない」「どうしても抜いてしまう」こうした強い衝動に悩まされている方は、想像以上に多くいらっしゃいます。そして、その多くが「自分だけかもしれない」「恥ずかしい」という気持ちから、誰にも相談できずに一人で苦しんでいるのです。

    トリコチロマニアは、医学的には「強迫症および関連症群」に分類される精神疾患です。自分の意思ではコントロールできない衝動に突き動かされ、毛を抜いてしまう行動を繰り返してしまうのです。重要なのは、これは決して恥ずかしいことではなく、適切な治療によって改善する可能性が十分にあるということです。

    抜毛衝動に抵抗できない

    トリコチロマニアの中核症状は、この「抜毛衝動への抵抗の困難さ」です。まるで反射的な行動のように、ふと気づくと毛を触り、抜き始めてしまうのです。毛を抜きたいという衝動は、強いストレスを感じている時だけでなく、リラックスしている時、退屈な時、集中している時など、様々な状況で生じることがあります。

    そして、一度抜毛が始まると、それを止めることは非常に困難です。この衝動の制御の難しさは、毛髪再生後の患者報告アウトカムに関する研究でも示されており、脱毛による精神的な苦痛の大きさが報告されています。

    抜毛後の満足感や解放感

    毛を抜いた後、一時的な満足感や解放感、あるいは達成感のような感覚を覚えることがあります。

    すぐに罪悪感や自己嫌悪が湧き上がり、「またやってしまった…」という後悔の念に苛まれるのです。そして、この自己嫌悪が新たなストレスとなり、再び抜毛衝動を呼び起こすという悪循環に陥ってしまうのです。

    頭髪以外の体毛を抜く

    トリコチロマニアの抜毛対象は、頭髪だけにとどまりません。眉毛、まつ毛、髭、腕や脚の毛、陰毛など、体のあらゆる部位の毛が抜毛の対象となる可能性があります。

    どの部位の毛を抜くかは人それぞれであり、複数の部位の毛を抜く方もいます。抜毛によって毛が薄くなったり、部分的に全くなくなってしまうことで、外見上の変化に強いコンプレックスを抱いてしまう方も少なくありません。円形脱毛症と同様に、見た目の変化が精神的な負担を増大させ、生活の質を低下させてしまうのです。

    精神的ストレス

    精神的なストレスは、トリコチロマニアの主要な原因の一つと考えられています。日常生活における様々なストレスが、抜毛衝動の引き金となる可能性があります。

    例えば、職場での人間関係のトラブル、過度なプレッシャー、家庭環境の問題、将来への不安など、私たちを取り巻く様々なストレス要因が、トリコチロマニアの症状を悪化させる可能性があるのです。

    遺伝的要因

    トリコチロマニアの発症には、遺伝的な要因も影響している可能性が示唆されています。家族にトリコチロマニアの方がいる場合、その発症リスクは幾分高まるという研究結果も報告されています。

    しかし、遺伝的要因だけで発症が決まるわけではなく、環境要因やその他の生物学的要因、心理社会的要因などが複雑に絡み合って発症に至ると考えられています。

    ドーパミンやセロトニンの機能不全

    脳内の神経伝達物質であるドーパミンやセロトニンは、私たちの感情や行動、意欲などを調節する上で重要な役割を果たしています。これらの神経伝達物質の機能不全が、トリコチロマニアの症状に関連しているという説も提唱されています。

    例えば、ドーパミンは快感や報酬に関わる物質であり、抜毛後の満足感と関連づいている可能性が考えられています。また、セロトニンは心のバランスを保つ働きがあり、セロトニンの不足は不安や衝動性を高め、抜毛行動を誘発する可能性があると考えられています。

    グリチルリチン酸合剤を用いた円形脱毛症の治療に関する研究では、免疫系の調節が毛髪再生に寄与している可能性が示唆されています。このことから、トリコチロマニアにおいても、免疫系と神経伝達物質の相互作用が症状に影響を与えている可能性が考えられます。

    トリコチロマニアの治療法と対処法

    認知行動療法(CBT)

    認知行動療法(CBT)は、抜毛につながる思考パターンや行動パターンを変えるための治療法です。例えば、「プレゼンで失敗したらどうしよう」という不安が「髪を抜きたい」という衝動につながる場合、この思考の連鎖に気づくことがCBTの第一歩です。

    「失敗=絶対に許されない」という完璧主義的な思考の癖も、ストレスを増幅させ、抜毛行動を誘発する可能性があります。CBTでは、このような認知の歪みに気づき、より現実的で柔軟な思考パターンを身につける練習を行います。医師や臨床心理士との対話を通して、思考の癖を分析し、具体的な対処法を一緒に考えていきます。

    薬物療法(抗うつ薬、抗精神病薬など)

    薬物療法は、脳内物質のバランスを整え、抜毛衝動やそれに伴う不安、抑うつ症状を軽減する治療法です。例えば、セロトニンという神経伝達物質の働きを調整するSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、うつ病だけでなく、トリコチロマニアの治療にも有効性を示しています。

    また、ドーパミン系に作用する抗精神病薬も、抜毛衝動の軽減に役立つ場合があります。薬の効果や副作用には個人差があるため、医師との綿密な相談のもと、最適な薬剤の種類や量を調整していくことが重要です。自己判断で市販薬やサプリメントを服用することは避け、必ず医師の指示に従ってください。

    最近発表された研究では、クレアチンサプリメントは脱毛に影響を与えないという結果が出ています。しかし、これはトリコチロマニアではなく、アンドロゲン性脱毛症に関する研究結果であり、トリコチロマニアへの効果は保証されていません。

    行動療法(習慣逆転訓練など)

    行動療法は、抜毛という行動そのものを変容させるための治療法です。習慣逆転訓練(HRT)は、抜毛につながる行動の連鎖を断ち切り、新たな行動パターンを身につけるためのトレーニングです。「どんな時に抜毛したくなるのか」「抜毛の前にどんな行動をしているのか」「抜毛した後はどうなるのか」といった一連の流れを詳細に記録し、分析します。

    そして、抜毛衝動を感じた時に、代わりに手を握ったり、ストレスボールを握ったりするなど、別の行動をとる練習を繰り返します。

    セルフヘルプグループへの参加

    同じ悩みを持つ人たちが集まるセルフヘルプグループに参加することで、孤独感を解消し、共感や励ましを得ることができます。「自分だけじゃない」と思えるだけでも、気持ちが楽になるはずです。他の人たちの体験談や対処法を共有することで、新たな気づきやヒントが得られることもあります。

    ストレスマネジメント

    ストレスは、トリコチロマニアの大きな引き金となるため、ストレスマネジメントは非常に重要な対処法です。まずは、自分にとって何がストレスになっているのかを具体的に把握する必要があります。

    「仕事」「人間関係」「将来への不安」など、ストレス源は人それぞれです。ストレスの原因を特定したら、それぞれの状況に合った対処法を身につけていく必要があります。具体的な方法としては、タイムマネジメント、アサーティブコミュニケーション、問題解決スキルなど、様々なテクニックがあります。

    リラックス法の習得

    ヨガ、瞑想、アロマテラピー、呼吸法など、様々なリラクゼーション法があります。自分に合った方法を見つけることで、心身の緊張をほぐし、ストレスを軽減することができます。リラックス状態を意識的に作り出すことで、抜毛衝動をコントロールしやすくなります。

    家族や周囲の理解とサポート

    トリコチロマニアは、周囲の理解とサポートが非常に重要です。家族や友人、職場の上司や同僚に、自分の状況や気持ちを伝えることは、精神的な負担を軽減することにつながります。

    まとめ

    この記事では、トリコチロマニア(抜毛症)について、原因や症状、治療法などを解説しました。やめたいのにやめられない、この衝動に悩んでいる方は決して少なくありません。一人で抱え込まずに、まずはこの記事でトリコチロマニアへの理解を深めてみてください。

    トリコチロマニアは精神疾患の一つであり、適切な治療によって改善が見込めます。認知行動療法や薬物療法、そして生活習慣の見直しなど、様々なアプローチがあります。 「恥ずかしい」「誰にも言えない」と一人で悩まずに、専門家や周りの人に相談してみましょう。

    参考文献

    出典元・参考URL
    • Alosaimi A, Algarni A, Alharbi A, Alotaibi A, Alomairi A, Alsurayhi M, Alharbi W. “Comparative efficacy of minoxidil alone versus minoxidil combined with low-level laser therapy in the treatment of androgenic alopecia: a systematic review and meta-analysis.” The Journal of dermatological treatment 36, no. 1 (2025): 2447355.
      Li M, Xiang L, Li Y. “Efficacy and safety of compound glycyrrhizin in patients with alopecia areata: a systematic review and meta-analysis.” Annals of medicine 57, no. 1 (2025): 2491659.
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